‘70%’の誘惑
歩くリズムを時間軸で眺めてみる。正常な歩行はきっちり一定のテンポを刻まずに、適度なゆらぎを持つ。ゆらぎが全くないのはかえって不自然で不健康だ。
米国の研究者たちは、ボストン大学・スタンレー教授らが開発したDFAという巧妙な解析手法を使って、このゆらぎを調べていた。
まず、歩行リズムから一歩ごとに歩行周期(足が地面に着いてから、同じ足が次に地面に着くまでの時間)を取り出す。これは、ふつうだいたい1秒近辺でゆらいでいる。次に、歩行周期の時間変動を数学的に変換して一つのグラフを作る。
横軸を時間のスケール、縦軸を歩行周期のゆらぎの大きさにすると、グラフはほぼ直線になる。
そして、若くて健康な人の場合、直線の傾きは1に近くなる。いわゆる「f分の1ゆらぎ」というものだ。このゆらぎは、そよ風や小川のせせらぎ、はたまたモーツアルトの楽曲に含まれることでよく知られている。
反対に、老化や脳神経系の病気の場合、傾きは0.5に低下する。白色雑音と呼ばれる無秩序なシグナルに見られるゆらぎだ。
これが、13年前に彼らが初めて見つけた歴史的成果である。
それでは、私たちの貴重な後ろ向き歩行はどうだったか?
データは残っていないが、同僚が作成したDFAのグラフは頭の中に残っている。確か、前向き歩行の傾きが0.9、後ろ向き歩行がおおよそ0.7だった。
ロブスターには劣るかもしれないが、決して悪い値ではない!
その後、たくさんの歩行データを集めたが、普通の歩き方で傾き0.7 なんて珍しくなかった。だから、‘腹七分目’は「前向き」に捉えていい、と思うようになった。
いつの日か、大自然の中でのびのびと後ろ向きに歩く実験をしよう…さぞかし爽快で、100点満点が出るに違いない…そう思いつつ、七分目の心地よさに微睡んでいるうちに、干支も一回りしてしまった。